人間らしく食べるということ

あなたの好きな食べ物はなんですか？ と聞かれたら、
「ポップコーンと麦チョコです」と答えるようにしている。
いまだかつて誰にもそんな質問をされたことがないので、
そのように答える心構えをしているだけで、答えたためしはないのだが。

なんで好きなのかっていうと、ポップコーンも麦チョコもどちらも
袋につっこんで手掴かみで一気に口のなかに放り込む、という一連の動作がなんともいえず原始的で、「ものを食ってる感」が強いからである。
少なくともアフタヌーンティ（皿が３段になってるやつ）よりは、麦チョコを食っている姿のほうが圧倒的に下品であろう。床に落っこちた麦チョコを一粒拾い上げて食う仕草などは、ほとんどゴリラである。

高価な洋服を着てすましている女の子と居酒屋などで食事をする際は、必ず手羽先を注文し、女の子が鶏の骨にしゃぶりつく姿をじっくり凝視する、というサイテーな趣味をもつ僕だが、やはり寝転がってポップコーンや麦チョコをモフモフやっている姿は誰にも見られたくないなあと思う。手掴かみでものを食う行為をどこか「はしたない」と感じているからだろう。

「食べているところを見られるくらいなら、寝顔を見られたほうがマシだ」
と言った女が過去にいたが、
それはつまり、欲求を満たしている際の自分の（無防備な）姿を見られるのが恥ずかしかったからであり、
おそらくその延長にある「ガツガツ食べる」「惰眠をむさぼる」のような行為を、
人前でおおっぴらに晒すものではなく、みっともないことだと自覚していたからだろう。
食欲、睡眠欲、性欲。
どれを満たしている瞬間がいちばん恥ずかしいだろうか？　人によってそれぞれ順位が違う気がする。

ポップコーンや麦チョコを食うとき、傍らにフィンガーボールを置いておくことで
貴族気分が味わえる！　と思って実践してみたのだが、実際はそんなこともなかった。